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春の息吹
1991.12.5制作
使用:鉛筆・透明水彩

§ 自作小説『天狼星に』のイメージとして制作 §
 年が明けて間もない廃墟の街を、虚脱と絶望の果 てにただれた手で掴んだ一抹の希望をそれぞれの胸に秘め、大きな荷を手にした人々が足早に過ぎていった。
 ふと、顔中に皺を刻んだ初老の小柄な男が、歩を休めるとその渋面を上げて辺りを見回した。そしてまもなく、ひび割れた街道のあちこちで、人々が同じ行動を取り始めた。街道の外れに、崩れたコンサートホールがあった。
 無数の楽器がうち捨てられたままのステージで、4人の若者が無心に演奏していた。若者達は、凍る風の吹く中、コートを脱ぎ捨て、薄いシャツ一枚の姿で、まるでそれぞれの思いを吐き出すかのように無心に楽器を奏で続けた。その曲は、誰もが知っていた。この日のために、歌い継がれてきた曲だった。